「ネイティブチェック」信仰を抜け出す――理論、手法そして実践

[JTF 翻訳祭スピーチ原稿] これから、「ネイティブチェック信仰を抜け出す」という、かなりモノ騒がせなタイトルのもとにお話をさせていただきます。といっても、私はここで「英米偏重主義を打破せよ!」とか「日本人の誇りを取り戻せ!」などといったことをお話するつもりではありません。 また、ネイティブチェックはまったく不必要だ、といった極論を展開するつもりでもありません。ここで取り上げたいのは、もっと現実的でビジネスライクな話です。 現在の翻訳業界では、翻訳プロジェクトのなかでのネイティブチェックの意義や機能や成果が十分に検討されていません。多くの翻訳会社は、体系的で合理的な裏付けをもとにしてネイティブチェックを行っているわけではなく、それがないと品質が不安だから、という漠然とした理由でネイティブチェックを行っています。こうした仕事のあり方が、品質管理での無駄を生み出し、それが翻訳会社の経営力の低下や翻訳者に対する翻訳料の引き下げにつながっています。 翻訳ビジネスで最も削ってはいけないのは、翻訳者に対する報酬です。翻訳会社の生命線は、優秀な翻訳者の確保にあるからです。翻訳者への報酬の引き下げは、その生命線を断ち切ることになります。にもかかわらず、現在の翻訳会社の多くは翻訳者に対する報酬を引き下げ続けています。なかにはセブンイレブンの時給よりも低いのではないかと思われるような翻訳料を設定している翻訳会社もあります。翻訳会社側からは、競争が激化しているから、販売単価が下がっているからといったさまざまな言い分があるでしょう。しかしながら優秀な翻訳者を失ってしまっては、そもそも市場競争には勝て

【けっこう知られていない英語発音の常識その2】 国際英語の発音学習の基本中の基本は「音節のCVC化」「強母音と弱母音の区別」「強母音のみの等時性の確保」の3点

国際英語の発音学習の基本中の基本は「音節のCVC化」「強母音と弱母音の区別」「強母音のみの等時性の確保」の3点の習得に尽きる。この3点さえ習得してしまえば、とにもかくにも国際英語の発音になる。逆にこの3点が習得できなければそもそも国際英語の発音にならない。いわゆる「カタカナ」発音はこの3点が習得できていないことの証明であり、したがってそれは国際英語の発音ではない。 「音節のCVC化」も「強母音と弱母音の区別」も「強母音のみの等時性の確保」も日本語の発音のあり方からは、まったく想像もつかない発音のあり方である。そのため日本語人には習得どころか理解さえもしにくい。したがって、まずその音韻システムをある程度理解して(といっても想像もつかないのだから最初は理解も十分にできないのだが)、それからトレーニングを重ねてそれを身体化していく必要がある。身体化が進むにつれて徐々に理解も深まっていく。 「音節のCVC化」「強母音と弱母音の区別」「強母音のみの等時性の確保」に関する詳しい説明については、このあとに少しずつ書いていくことにする。

【けっこう知られていない英語発音の常識その1】

英語の発音学習をする際になによりも認識しておかなければならないのは、日本社会の中で生まれて育った日本語人には、英語社会で生まれて育った英語人つまり「英語ネイティブ」の英語発音を「完璧に」真似ることは不可能だということである。これは言語研究者にとって常識中の常識である。 たしかに膨大な時間と労力をかければ、英語ネイティブ発音のほぼ近い水準にまで英語の音を真似ることは可能ではある。だが、例えそうした物真似ができるようになったからといって、それがどうだというのか。英語ネイティブの発音に近い発音ができることなど人間としての価値とはいささかも関係がない。少しでも知恵がある人間ならば、そのようなくだらないことに大切な時間とエネルギーを使うべきではない。人生には他にやるべき大切なことが山ほどあるのだ。 従って日本語人の英語の発音学習では、その共通達成目標を「国際英語としての発音の基本を守ることを前提とする日本人アクセント英語」とすることが望ましい。そしてその共通目標を達成したうえで、もしも一部の人々がそれでもどうしても英語ネイティブ発音を真似たい、あるいは(仕事や生活などのために)真似る必要があるというのならば、そのトレーニングを積めばよいだろう。国際英語としての発音の基本ができていれば、その段階でネイティブ英語の真似をするのは、かなり容易な作業である。なお、国際英語としての発音の基本については、次の回に詳しく説明する。

日本語文での和語、漢語、カタカナ語の使い分けについて

日本語の文は和語、漢語、カタカナ語という3つの語彙要素が複雑にからみあったかたちでつくられています。より価値の高い日本語文をつくるためには、この3つの語彙要素を適切に使い分ける能力を養い育てることが必要不可欠です。この演習問題で取り組んできたのは、以下、和語、漢語、カタカナ語の使い分けに関する知識およびトレーニング手法について、簡単にまとめておきます。 1.同じ意味を持つ和語と漢語の使い分けで重要なことは、「モダリティ」(内容に対する話し手の判断や相手への伝達)の違いです。同じ意味なのに漢語ではなく和語のほうを敢えて選んで用いるということは、話し手がその内容に関して「私的」「口語的」と判断し、またその判断を相手に伝えようとしていることを意味します。一方、同じ意味なのに和語ではなく漢語のほうを敢えて選んで用いるということは、話し手がその内容に関して「公的」「文語的」と判断し、またその判断を相手に伝えようとしていることを意味します。 2.カタカナ語は次の3種類に分けることができます。①「ガラス」「コップ」のように和語・漢語と同等の扱いができるカタカナ語。②「ペルソナ」「マーケティング」のように従来の日本語語彙では表現できない概念を表現するカタカナ語。③「デイリー」「スキル」「アップデート」「プロセッシング」のように和語や漢語でも表現できるにも関わらず、カタカナ語の持つモダリティ(話し手がその内容に関して「従来の日本語とは異なる」「欧米的である」「なんだかカッコいい」と判断し、またその判断を相手に伝えようとする)を重視して用いるカタカタ語、の3種類です。①と②のカタカナ語については利

【けっこう知られていない英作文の常識5】英作文に「正解」はない

英作文には「正解」などない。このことは、翻訳者仲間ではあまりにも当たり前なので特に話題にもならないが、一般の人のなかでは、英作文に正解というものがあるように思っている人がけっこういるようだ。 じつは英作文だけでなく英文和訳にも「正解」などない。これも翻訳者としては当たり前だが、入試関連の参考書などではまるで英文和訳に正解があるかのような書きっぷりをしているものもあり、それが混乱を招いている。 そもそも日本語の世界と英語の世界とは本質的に異なっているのだから、一対一対応なんぞするわけがない。だから日本語と英語のあいだを行き来する英作文や英文和訳に正解などあるはずもないのだが、それがけっこう知られていないのも事実のようだ。困ったものである。

米低学歴層 広がる「絶望死」」

今日(2017.11.17)の日経新聞朝刊8面の「米低学歴層 広がる「絶望死」」という記事が非常に興味深い。記事の出だしは次の通り。 「米国で低学歴の白人中年層の死亡率が急上昇している。オピオイド系鎮痛剤の過剰摂取や自殺が原因だ。社会からの疎外感が背景にあり、トランプ政権の誕生にもつながった。この現象を「絶望死」と名づけて共同研究に取り組むノーベル賞経済学者のアンガス・ディートン・米プリンストン大教授と、妻のアン・ケース同大教授に原因や展望を聞いた。」 以下、記事内容のまとめ。 なぜ米国で「絶望死」が増えたかの理由についてディートン夫妻は「教育と深い関係がある。高卒以下の国民で構成する米国と、大卒以上の国民で構成する米国という2つの国が存在するようだ。高卒以下の米国人が絶望死の最大の犠牲者だ」と述べる。 グローバリゼーションについては「グローバリゼーションや技術の発展は、適切に扱えば人々に富をもたらす。しかし米国では普通の人から所得を奪い富裕層に再配分するように使われている」と分析する。 政治については「民主党は労組を見捨て、エリートとマイノリティを代表する連合になり、共和党は資本の代表。白人で高卒以下の利益を代表する政党がない」と喝破する。 そして最後に「格差は日本のような国にも広がっている。多くの人々が疎外感を抱く世界の行く末を懸念している」と述べている。 グローバリゼーション、テクノロジー、リベラル、自己責任、教育に対する考え方を見直すためにはとても良い記事だ。一読をお勧めする。

日本人の頭に砂が水を吸うように英語が入ってくることはありえない。

11/8付け毎日新聞の「論点:日本の英語教育のあり方」が面白い。 以下、そのなかの水村美苗のコメント部分の抜粋。 ☆☆☆ 「まず日本語」の理念確立を 日本は長い歴史を持つ書き言葉があり、国民国家の言葉としての国語が定着した国だ。しかもその国語は、西洋語とは別の言語体系に属し、別の表記法をもつ。私たちは、日本語を通じて別の目で現実を理解しているのである。日本人の頭に砂が水を吸うように英語が入ってくることはありえない。 そのような日本人にとって「英語はできればできるほどよい」という考えがここまで蔓延しているのは不幸であり、まずは、その考えを根本から見直さなければいけない。 グローバル化が進む現代は「英語の世紀」でもあり、英語を学ぶ人が増えていくのは必然である。だが、その流れは人類の書き言葉の多様性を脅かす。それゆえ「まずは国語を」という理念を今みなで明確に打ち立てねばならない。国語をきちんと読み書きできる「日本語人」を育てることを教育の基本に置く。その姿勢が必要だ。 ☆☆☆ この至極まっとうな意見に対して、学校教育関係者は応えていく必要がある

【けっこう知られていない英作文の常識 その4】

従来の学校英作文の指導では「間違いのないきちんとした英語を書くこと」という目標が(暗黙裡ではあるが)設定される。この場合の「英語」とは「ネイティブ英語」のことを(暗黙裡に)指している。 これはじつに馬鹿げた目標設定である。なぜならば大学教師を含む日本人英語教師のほぼ全員が「間違いのないきちんとしたネイティブ英語を書くこと」能力など持っていないからである。もちろん私もそんな能力は持っていない。またその能力を持つ努力を重ねるつもりもない。そんな意味のないことに人生の大切な時間を消費するのは愚か者の所業である。なおネイティブ英語教師の一部(全員ではない)は間違いのないきちんとしたネイティブ英語を書く能力を持っているが、彼等は日本語のことを知らないので、単に我々の書いた英文がネイティブ英語として間違いかどうかを指摘できるだけのことである。これは学習指導と呼ぶに値しない。 要するに「間違いのないきちんとしたネイティブ英語を書く」という目標設定そのものが間違いなのである。最初のボタンを掛け違えているのだ。この目標設定を保持しているかぎり、日本人のための英作文教育にこれからも進歩はない。ゆえにこの目標は破棄されなければならない。

【けっこう知られていない英文読解の常識 その1】

英文を理解する際の基本単位はセンテンスではない。「思考の基本単位」(命題、意味チャンクと呼んでもよい)である。 センテンスはSubject、Predicate、Modifierという3つの要素からできているが、このなかで(基本的には)Subject-Predicateが1つの思考の基本単位(命題、意味チャンク)である。そしてModifierもまた1つのの思考の基本単位(命題、意味チャンク)である。 したがって、Subject-PredicateにModifierが前と後ろの1つずつ付いているセンテンス(M-SP-M)は3つの思考の基本単位(命題、意味チャンク)からできている。 ゆえにこのセンテンス(M-SP-M)を理解するためには、センテンスをまとめて理解するのではなく3つの部分に分けて順々に理解したほうが、はるかに分かりやすい。これを「SPM分析」読みという。

国際英語で許容される誤用は、具体的にはどのようなものなのか

先の投稿で、英語ノンネイティブは国際英語を利用するうえで一定の誤用をおこなえる「権利」を持っており、英語ネイティブはそれを許容する「義務」があると、述べた。 では、そうした許容されるべき「一定の誤用」とは、具体的にはどのようなものなのか。 いくつか例を挙げよう。単数形/複数形の誤用やtheの用法のミスは、英語ノンネイティブにとって「権利」なのだろうか。現在形三単現のsの付け忘れについてはどうなのか。過去形と現在完了形の取り違いは許されるのか。分詞句の意味上のSubjectとSentenceの実際のSubjectとの食い違いをどう評価するのか・・・。 英語ノンネイティブの誤用の正当性を主張するとすれば、こうした具体的な諸項目について、それぞれ細部にわたるまで徹底的に分析をする必要がある。そうした分析は、国際英語での一定の誤用に対する理論的裏付けとなり、またそれを英語ネイティブに納得させるための武器にもなるはずだ。

【けっこう知られていない英作文の常識 その3】

英作文では単語を調べる際に和英辞書を利用する人が多い。それも現在では紙の辞書ではなくオンライン辞書(英辞郎やWeblio)が多いようだ。 だが実際に適切な訳語を見つけ出すのに非常に役に立つのは和英辞書ではない。英語のThesaurus(類語辞書)の方である。 例えば、「良い」の表現としてgoodしか思い浮かばず、別の表現を使いたいとしよう。その際に和英辞書を調べると、研究社「新和英辞典」では、次のように載っている。 good 〈優れている〉good; fine; excellent、〈快い〉nice; pleasant; agreeable; sweet (香り・味・音などが)、〈美しい〉beautiful; pretty、〈幸運な〉lucky これだけの情報では、私たちが英作文をおこなう場合には、あまり役に立たない。 ところが、Oxford Paperbaack Thesaurusのgoodの項を見てみると、なんと1ページ近くにわたってgoodに関連するあらゆる表現が説明されているのである。その一部分だけを取り出すと、以下の通りである。 good adj. 1. [a good product] fine, superior, quality; excellent, superb, outstanding, magnificent, exceptional, marvellous, wonderful, first-rate, first-class, sterling; satisfactory, acceptable, up to scratch, up to stand

【けっこう知られていない英作文の常識 その2】

SentenceはSubject、Predicate、Modifierという3つの要素からできている。Sentenceの要素はこの3つだけである(接続詞などは別)。ゆえにこの3要素を適確に識別できることが英語構文力の基本中の基本である。 3要素の代表的な識別方法としてはSentence中の各要素間を斜線で区切っていく「スラッシング」がある。成瀬教室では英語力診断検査にこのスラッシングを取り入れている。具体的には初見テキストを読みながら前から順番にスラッシングを入れていく作業をおこなってもらい、そのスピードと精度を測定していくというものである。この検査で被検査者の英語構文力及びその欠陥部分がかなり特定できる。

【けっこう知られていない英作文の常識 その1】

英語では、何かまとまった思考内容を表現するとき(原則的には)その内容の「トピック」(~について)をSubjectとして表現し、それに対する「メインコメント」(~だ)をPredicateとして表現する。そしてそのトピックに対する「サブコメント」についてはModifierとして表現する。 したがって「思考のまとまり」を重視する際には「トピック+メインコメント」(Subject-Predicate)に対して数多くの「サブコメント」(Modifiers)が付加されることになる。これが普通の「大人の英文」のかたちである。

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