【翻訳ワンポイントレッスン】 日本語人は「丸裸の名詞」を誤読する

英日翻訳トレーニングに絶好のセンテンスを発見。間違いそうなポイントがいくつも入っています。そのセンテンスをもとに、これから何回かのレッスンをします。今回はその1回目。 そのセンテンスは次のもの。まず英文を理解して、日本語にしてみてください。 A man is a laborer if the job society offers him is of no importance to himself but he is compelled to take it by the necessity of earning a living and supporting his family. ある方は、次のように訳しました。 業界に職を提供されれば労働者になるというのは、自分にとっては何の興味もないことだ。しかし、生計を立て家族を養うためには、その仕事をせざるを得ない。 これは誤訳です。英文構文の理解に失敗しました。どこを失敗したかというと、最初のA man is a laborer if the job society offers him is of no importance to himselfです。 この方は、この部分を次のように理解しました。 (That) A man is a laborer if the job society offers him is of no importance to himself すなわち、(That) A man is a laborer ...himまでがthat節の名詞用法であり、その名詞用法のthatが省略されている、としたのです。

【翻訳ワンポイントレッスン】 「は」の射程距離には、ご注意を

先の【日本語ワンポイントレッスン】において「~が」と「~は」の影響力の射程距離の違いについて解説しました。 「~が」が影響力を及ぼすのは基本的にはその後にやってくる述語までです。ところが「~は」の影響力はその後にやってくる述語だけでなく少なくとも文全体にまで及び、さらには次の「~

【日本語ワンポイントレッスン】 「~てしまう」は単なる「完了」表現ではありません

中学で英文法を習ったとき英語の完了形(have+過去分詞)を「完了用法」では「~してしまった」と訳すと習った人は多いのではないでしょうか。たとえば、次のとおりです。 I have already eaten breakfast. (私はもう朝食を食べてしまった。) あるいは、次のような説明を英文法の参考書で読んだことのある人も多いはずです。 〈have been toとhave gone toの違いについて〉」 have been toは「行ったことがある」という「経験」を表す。それに対してhave gone toは「行ってしまった(今はここにはいない)」という「完了・結果」を表す。 こうした解説を呼んでしまうと、まるで日本語の「~てしまった」が英語の「完了」とが一対一対応するような気がしてきます。 しかし、これは間違いです。日本語の「~てしまう」には、単に「完了」の意味を表現するのではありません。「~してしまう」という表現には、「完了」の意味以外に、話し手のさまざまな心の動き(気持ち)が込められているのです。 日本語学者の近藤安月子さんは、次のように述べています(『「日本語らしさ」の文法』p108) シテシマウは、基本的に、ある事態の実現や課題の完結を表す用法と、ある事態の実現や発生が話し手の期待に反していることを表す用法があるとされます。一見、相反するように思われますが、シタシマウの基本は、何らかの動きの集結や変化の完結、そしてその結果生じる出来(しゅったい)の〈見え〉を言語化することですから、話し手が、どのような時にどのような事態の集結や出来にスポットライトを当てるかによ

【日英翻訳1日1題】 「願はくは 花の下にて春死なん そのきさらぎの望月のころ」

西行法師(1118-1190)の一首。「山家集」に載っています。意味は「死ぬときは春の桜の下で死にたいものだ。それも満月の夜に」。きさらぎは旧暦の2月。新暦のおよそ3月にあたります。望月(もちづき)はもちろん満月のこと。西行は1190年2月16日に本当に満月のもとで死んだそうです。 さて英語です。まずは日英京都関連文書対訳コーパスの訳です。 I wish to die under the flowers in the spring, around the day of full moon in February. 直訳すると「2月の満月の日あたりに春の花の下で死ぬことを私は望む」。描写としては確かにそのとおりですが、これで西行がこの一首にこめた心情が伝わっているのかというと、さてどうでしょうか。詩の訳としては不十分といわざるを得ません。 そこで無謀にも、私が挑戦してみました。まあ、お遊びということで許してください。 What a bliss it is if I could die under the cherry trees in full blossom gazing at the full moon of Spring night blissは「至上の幸福」。通常は不可算名詞として用いられますが、ここでは可算名詞として用いました。可算・不可算という区分はあくまで認識のあり方の問題なので、固定的な可算名詞、不可算名詞というものはありません。どのような名詞でも、論理的に無理のない範囲であれば、可算・不可算の両方で用いることができます。 全体を日本語に反

【英語ワンポイントレッスン】「逆走」を、英語でなんという。

高速道路での「逆走」が話題になっていますが、「逆走」は日本だけでなく世界中で問題となっているようです。「逆走」にあたる英語としてはさまざまな表現が可能ですが、よく使われるのはdrive in the reverse directionです。 シンガポールの新聞The Straits Timesに高速道路での逆走に関する次のような裁判記事がありました。http://www.straitstimes.com/singapore/accused-in-aye-reverse-driving-accident-accepts-liability-in-civil-suit-from-injured A businessman who drove in the reverse direction on the Ayer Rajah Expressway, which caused an accident that killed one, has accepted full responsibility in a civil suit filed by two of the three injured victims. (アヤ・ラジャー高速道路を逆走して一人を死亡させた事故を起こしたビジネスマンが、被害者3名のうちの2名が起こした民事訴訟において、その全責任を認めた) drive in the wrong directionという表現も使えます。次のとおりです Accidental trespassing of pedestrians, driving of vehicles in th

【英語ワンポイントレッスン】“My carelessness killed my dogs.”をどう訳すか

このBBCニュース(http://www.bbc.co.uk/programmes/p0542d9j)で紹介している記事は、ある男性がアスレチックジムにいっている数時間のあいだ車に愛犬を置き去りにしたために愛犬が死んでしまったという、とても痛ましいお話です。これから暑くなりますので、私たちも十分に気を付けましょう。 さて最初の一文 “My carelessness killed my dogs.” を日本語で表現してみましょう。どうでしょうか。 直訳の「私の不注意が私の犬たちを殺した。」はあり得ませんね。こんなの、まともな日本語とは、とてもいえません。直訳とは誤訳の同義語です。では、どうするのがよいでしょうか。たとえば 「私の不注意で、愛犬を死なせてしまった。」 という訳文ではどうでしょうか。 ここでのポイントはkillという語に対して「死なせる」という「使役」表現(させる)を使っているところ。こうした場合の日本語の使役文には、ある種の自己責任の表明が含まれます。それがこのケースではぴったり。 いっぽう日本語の「受け身(られる)」にはある種の無力感が含まれます。たとえば「不慮の事故で愛犬に死なれてしまった。」など。これを英語にすると An accident killed my dogs. ここから分かるのは「死なせる」「死なれる」ともに、英語ではkillで表現できる、というか、せざるを得ないということです。 このように日本語の「使役」「受け身」と英語のmake/受動態とは一対一対応をしていません。じつは、すべての文法項目は日本語と英語とで一対一対応しないのです。 ですから、日英

いわゆる「冠詞」について

「冠詞」については、そもそも、articleを「冠」詞と誰かが大誤訳したことこそが、日本の英語教育のその後の「冠詞」迷走・暴走のはじまりであったと考えます。「かんむり」などとしてしまったために、日本人のなかには「冠詞が名詞につく」という完全に間違った思い込みを刷り込まれてしまいました。 少し考えてみれば、あとから出てくる語に対して、まえに既に出ている語が「つく」ことなどあり得ないのですが、そうしたちょっとした冷静な判断さえも、これまでの日本の英語教育者はできなかった、ということです。それにしてもarticleをなぜ「かんむり」にしたのでしょうか。わかりません。 1988年に出た『日本人の英語』のなかでマーク・ピーターセンは、「名詞に"a"や"the"がつくのではない。"a"や"the"に名詞がつくとしかいいようがない」という非常に重要かつ有名な指摘をしました。これは言語学的にいえば、article(冠詞)とはdeterminer(決定詞、これも「限定詞」と誤訳されています)の一種である、ということです。なおDeterminerについては「心の英文法」で解説している説明文をこのメールの最後につけておきます。 ピーターセンの『日本人の英語』を読んだとき、日本人のarticle(「冠詞」)に対する間違った考え方がついに根底から修正されるべき時がきた、と私は確信をしました。ところがなんと、その後も学校英語教育の「冠詞」の扱いは、ほとんど変わりません。あいからず冠詞の「用法」にばかりに固執しており、アマゾンでは冠詞に関する解説本がいまも山のように発売されています。1988年から30年を経

【英語ワンポイントレッスン】宇野選手がspectacular fallsでも2位

2018年世界フィギュアスケート選手権で銀メダル/銅メダルをとった女子に続いて男子も宇野昌磨選手が2位、友野一希選手が5位と大健闘。優勝は米国のネイサン・チェン選手。AP通信は次のように伝えています。 Nathan Chen completed six quadruples and bettered his Olympic free skate score to win the world figure skating title on Saturday.(日曜、ネイサン・チェンが世界フィギュアスケートタイトルを獲得。6回の4回転を成功させフリーのスコアはオリンピック越え。) *quadruplesは、四重・4 倍/【音楽】4 拍子。 ここのbetterは動詞用法(~にまさる、~をしのぐ)。非常に使い勝手のよい表現なので覚えて損なし。 このセンテンスは次のように書いてかまいません。 Nathan Chen won the world figure skating title on Saturday by completing six quadruples and bettering his Olympic free skate score. でもこの記者は最初にChen completed six quadruplesと書いて読者をなんとか惹きつけたいと考えたわけ。このようにジャーナリスト英文は表現にひとひねり、ふたひねり加えること多し。 The 18-year-old American was the only competitor in the last group no

青松秀男さんのエッセイ「改めて英語力」が素晴らしい

日経新聞を購読している人は、今日(2018年3月22日)の夕刊7面の右下コラム「十字路」というコラムをぜひ読んでほしい。DRCキャピタル代表取締役の青松秀男という人が「改めて英語力」というタイトルでエッセイを書いているが、その内容がまるで私(成瀬)が書いたんじゃないかと思うほどである。その後半部分のみ、ここに紹介しておく。このような人がいてくれることが私にとって大きな救いであり、大きなはげみである。 ☆☆☆ しかし、国際的に活躍しているビジネスマン、学者、アスリート、芸術家で若い頃に英会話を習っていたという人を聞いたことがない。それぞれの分野を極めている時に、積極的に英語の文献を読み、英語で書いて海外の人とコミュニケーションをとっていただけで、英会話は必要に応じてできるようになった人がほとんどだ。流ちょうに話せる必要は全くない。 インターネット時代にはあらゆる情報が瞬時にして手に入るが、多くは英語で書かれたものである。海外の政治経済動向、海外企業の年次報告書、技術革新の動きなどの一次情報はすべて英語である。 ところが、学校で6年以上英語を習っていたビジネスマンの多くは、このような英文を読もうとしないし読解もできない。英文Eメールができる人も限られる。仕事と趣味のためにもっと英文を読み書きすれば必ず世界が広がる。そのためには辞書を引く習慣で語彙を増やし、英文法も確認する地道な努力が必要だ。 一方、小学生は英語の前に国語をしっかり学び、多くの本を読んでもらいたい。自国語で文化を習得していない人は真の国際人になれない。英語より敬語、外国風習より自国礼節を学ぶのが先だ。

we don’t deserve to serve you.

Facebookから約5000万人分のユーザー情報が漏えいした事件が大問題になっています。 これに対してMark Zuckerbergが自分のページにポスティングしました。長文ですが読み応え十分。以下はそのなかの一文です。 We have a responsibility to protect your data, and if we can’t then we don’t deserve to serve you. 日本語人がわかりにくい表現があるとすればdeserveでしょう。deは強意を表す接頭語、serveはラテン語のservireが語源でserve, service, servantなどが仲間です。 deserveの意味は「それに仕えられると心から思う」→「やる価値がある」の流れでしたが、時が経つにつれて「~にふさわしい、~に値する」(be worthy)という意味が本筋となりました。たとえば、次のように使います。 He deserves to be President. He doesn't deserve her love. Your suggestion deserves considering. You deserve a promotion. 日本語人にとってdeserveという語がどうにもわかりにくいのは「Your suggestionがconsideringにdeservesする」というSVO思考の英文に日本語人がうまくなじめないからだと思います。 そんなときには、deserveとはbe worthy ofのこと、つまりYour suggestio

「春分の日」は、英語でどういうのでしょうか。

今日3月21日は、春分の日。では「春分の日」は、英語でどういうのでしょうか。 vernal equinox、またはspring equinox、またはmarch equinoxといいます。 vernalとspringが「春」、equinoxが「分」(昼夜平分時)です。marchは、もちろん「3月」。 equinoxという聞き慣れない語を説明します。この語はもともとラテン語です。それが古フランス語に12世紀頃に入って15世紀初めに英語に入りました。英語になってから600年ぐらいの新参者です。 equinoxを分解すると、equiとnoxに分けられます。equiは「等しい」。equal(イコール)と同じ語源。noxは「夜」。nocturne(ノクターン、夜想曲)という仲間もいます。 vernal equinoxとspring equinoxでは、どちらが英語として「自然」でしょうか。 vernal equinoxのほうです。vernalもequinoxもラテン語系語彙ですから相性が良いのです。いっぽうspringはゲルマン系語彙ですのでequinoxとは相性が良くありません。木に竹を接いだような感じが少しします。

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