本のご紹介:伊藤和夫の『予備校の英語』

駿台予備校講師であった伊藤和夫(1927-1997)は、「入試英語のバイブル」と呼ばれた「英文解釈教室』の著者であり、日本が輩出した最良の英語教育者・英語研究者の一人です。私のなかでは言語研究において時枝誠記、渡辺実、三上章、柳父章などと並び立つ巨峰でもあります。

今回ご紹介するのは、その伊藤が書いた『予備校の英語』という隠れた名著です。1997年が初版ですから20年以上も前に発刊されたものですが、その内容はまったく古びていません。じつは、このことが現在の日本の英語教育の悲惨さを物語っているのですが。

以下に、ほんの一節だけを抜粋してご紹介します。この部分の最後に伊藤は「受験英語の消滅によって空くことになる巨大な空白を埋めるものは何でしょうか」と書いていますが、この空白は、結局のところ、この20年のあいだ何も埋まっておりません。

「日本の英語教育は、戦後ずっと、「読み、書き、話すの、三能力の発達」とか「コミュニケーションの重視」とかいうお題目があるだけで、具体的な方法は皆無の、きれいごとに終始しているオモテの英語と、何としても大学に入りたいという願望だけに支えられた、実利的で泥くさい、受験のためのウラの英語という二重構造を持ってきました。無力でひ弱な公認の英語と、日本人の英語力をともあれ支えてきたのに批難され続けてきたウラの英語の対立だったわけです。オモテの英語は十年一日、戦後半世紀たっても変化があまり見られないのは、お題目がサッパリ変わらず、議論がいつも同じところを、つまり、受験英語のために日本の英語はよくならないという避難を、出発点にしていることでもわかります。(略)

変化は二重構造の外からやってきました。非難の大合唱に耐えてしぶとく生き残ってきた受検英語も、学生数の減少と受験地獄の消滅によって存立の基盤を奪われることには抵抗できません。予備校というホンネの世界を舞台に行なわれた数多くの実験は、有形の結果を残さぬままその幕を閉じようとしていますが、受験英語の消滅によって空くことになる巨大な空白を埋めるものは何でしょうか。」(『予備校の英語』、伊藤和夫、研究社、pp.100-101)

『予備校の英語』は、いまでもアマゾンなどで入手できます。英語教育者の皆さん、ぜひご一読を。

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