「通訳者への道・翻訳者への道」成瀬スピーチ

こんにちは。これから、プロ産業翻訳者というキャリアについて、そこに至るための道のりについて、お話をさせていただきます。まず、「誰がプロ産業翻訳者になれるのか」という点から、お話をはじめます。

1. 誰がプロ産業翻訳者になれるのか

私が講師をしているサイマル・アカデミー翻訳者養成講座の本科には、いま75歳の受講生がいらっしゃいます。順調にいけば、今年か来年にはプロ翻訳者デビューができそうな様子です。76歳の新人プロ翻訳者というわけです。これって、とてつもなく、すごくないですか?

また、これまでの受講生のなかでも、主婦をしていて翻訳経験ゼロの状態からプロ翻訳者になった人や、子育てをしながらプロ翻訳者になった人、定年を迎えてプロ翻訳者になった人、などなど、じつにさまざまな受講生の方がいました。知識、経験、年齢などによって「翻訳者への道」が閉ざされてはいないことは、これまでのサイマル講座の実績からも証明ができます。すべては、本気になれるかどうか、にかかっています。

2. 生涯を通じてプロ翻訳者として仕事をするために

サイマル・アカデミー産業翻訳者養成コースの目標は、受講生の皆さんをプロ翻訳者としてデビューさせることにあるのではなく、第一級のプロ翻訳者として生涯を通じて翻訳の仕事ができる翻訳力を、受講生に獲得してもらうことにあります。

そのための最初の目標として、サイマルグループの翻訳者としての登録を目指すのですが、それはあくまでも最初の目標にすぎません。翻訳エージェンシーへの登録に成功したからといって、そのあとに実際の仕事が継続的にやってこなければ、登録をした意味がありませんし、それは本当の意味でプロ産業翻訳者になったということにはなりません。登録をしたその日から仕事がきても大丈夫なように、サイマル・アカデミーの産業翻訳者養成講座では訓練プログラムを組み立てています。

実際、サイマルグループに登録がかなった受講生の方々のほとんどが、登録した直後から実際の翻訳ジョブに取り組んでいます。その実践を通じて、彼らの翻訳力はどんどんと磨かれていきます。たとえば今期の本科には1年前にサイマルグループに登録をした元受講生の方が再受講されています。もういちど自分の翻訳力を基礎からブラッシュアップしたいからとのことでしたが、1年間の実戦経験のなかで、その方の翻訳力はさらに大きく伸びていました。学習、実践、学習というサイクルが非常にうまくいっている例のひとつです。

3. 「機械翻訳の下請け処理担当者」ではなく「本物の人間翻訳者」になる

産業翻訳の今後のあり方を考えますと、①Tradosや機械翻訳を利用した大量処理案件と、②人間の手による高度な案件という2領域に大きく分かれていくことになるでしょう。そして、前者が翻訳マーケットの大半を占めて、後者についてはマーケットの一部を占めることになるでしょう。

必然的に、本当の意味での「人間翻訳者」の数は減っていくことになるでしょう。そのかわりに、Tradosや機械翻訳のための事前処理や事後処理などをおこなう「訳文処理担当者」とでも呼ぶべき仕事が増えていくことでしょう。この「機械翻訳の下請け処理担当者」を「翻訳者」と呼ぶのかどうかについては意見の分かれるところでしょうが、少なくともサイマル・アカデミーにおける「翻訳者」とはTradosや機械翻訳のパートナーまたはサーバントとしての「翻訳者」のことではなく、人間が主人公でありコンピューターはそのサーバントである「人間翻訳者」のことを指しています。

しかしながら、すでに述べたように「人間翻訳者」のニーズはそれほど大きなものではありません。それに従事できる翻訳者の数も今後ますます限られたものになっていくと考えられます。この限られたほんの少しの「本物の翻訳者」のひとりに受講生の皆さんになってもらうことが、サイマル・アカデミー産業翻訳講座の目標だと考えています。

4. 本物の翻訳技能の習得が必要

本物の翻訳者になるには、それにふさわしい本物の翻訳技能の習得が必要です。本物の翻訳技能とは、従来から広く用いられている「英文和訳プラス編集」という小手先の翻訳技法とのことではありません。単に言葉と言葉とをつなぐのでなく、心と心とをつなぐ、本質的な翻訳技能のことです。

人工知能の急激な発達によって、あと10年もすれば言葉と言葉とを変換するだけの翻訳のほとんどがコンピューター翻訳に置き換えられることでしょう。しかしながら、そうしたなかでも、言葉ではなく人間の心をつなぐための翻訳は必ず残ります。なぜならコンピューターには言語情報処理としての翻訳はできても、人間の心と心とをつなぐ翻訳はできないからです。人間の心と心とをつなぐことができるのは、ただ人間だけです。

では、どのようにすれば本物の翻訳技能を習得できるのでしょうか。その具体的トレーニングのひとつとして、サイマル・アカデミー産業翻訳コースでは、まず単なる英文和訳技法による訳文にこだわることをやめて、さまざまな訳文候補をつくりだすことからはじめます。

簡単な例を挙げます。次のセンテンスをどのように訳すのかを一緒に考えてみましょう。

Norwegian Wood was written by Murakami Haruki.

訳文候補として、もし英文和訳であれば

『ノルウェイの森』は村上春樹によって書かれた。

となるでしょう。ただ、この日本語がどこかおかしいことは、普通の日本人であれば誰もが気づくことです。おかしいと思わないのであれば、それは英文和訳にあまりに慣れ親しんだことによって自然な日本語の言語感覚が破壊されてしまっているからです。

では、どうすれば訳文が日本語としてもっと価値の高いものになるのでしょうか。ひとつの方法として私が受講生の皆さんにいつも勧めているのは、できるかぎりたくさんの選択肢をつくりだすということです。たくさんの訳文候補があれば、より価値の高い訳文を生み出せる可能性が大きくなります。

やってみましょう。たとえば、次のような訳文候補が考えられます。

  1. 『ノルウェイの森』は村上春樹が書いた。

  2. 『ノルウェイの森』は村上春樹の小説である。

  3. 『ノルウェイの森』を書いたのは村上春樹だ。

これらのそれぞれの訳文候補の持つ価値が具体的にどのように違うのかについては、サイマルの講座にて、お話をすることにします。

5. 本物の産業翻訳者には高度な専門知識が必要

翻訳技能のほかに本物のプロ産業翻訳者になるために欠かせないのが、高度な専門知識の習得です。たとえば、以下のセンテンスは最近のアナリストレポートからとってきたものです。

The combination of smaller-than-expected crude steel output cuts during the winter curtailment and a multi-year low inventory support our positive view for steel demand.

金融経済分野の翻訳者であれば、このセンテンス内容を即座に理解できなければなりません。もちろん、法務翻訳者であれば法務の専門知識が必要不可欠であり、メディカル翻訳者であれば医学の専門知識が必要不可欠です。それぞれの分野でそれぞれの深い専門知識が必要なのです。サイマルの創設者の一人である小松達也さんは、口癖のように「通訳の能力の半分は知識です」とおっしゃっていましたが、翻訳者もまったく同じです。まさに「専門知識なくして翻訳なし」です。

一部の方は、自分には専門知識がない、だからやはりプロ産業翻訳者になるのは無理だ、とがっかりされているかもしれません。そんなことはありません。プロ翻訳者にとって必要なベーシックな専門知識は、数年で習得が可能です。

たとえば、サイマル講座の卒業生でHさんという方がおります。Hさんは当時主婦でして、子育てが一段落したのでサイマル・アカデミー産業翻訳者養成講座にやってこられたという方です。Hさんは文学部のご出身でして、サイマルに入学されたときには経済金融の知識がほぼゼロでした。財務諸表という言葉さえも知らなかったと、あとで教えてくれました。しかしサイマルに入ったのち、Hさんは猛勉強をされました。そして2年でサイマルグループの翻訳者として採用されました。それから10年近くが経ちますが、Hさんは現在もサイマルグループの翻訳者としてご活躍されています。その間に、書籍の翻訳もなされています。

6. 本当の本気になれるかどうか、だけがプロ翻訳者になれるかどうかの条件

最初に、現在の75歳の受講生の方についてご紹介をしました。その方は順調にいけば2年ほどの学習でプロ翻訳者への道を歩み始めるでしょう。元主婦であったHさんはその先達として、すでに10年近くプロ翻訳者の道を歩み続けておられます。最初にも申し上げましたが、つまりは、本当の本気になれるかどうか、だけがプロ翻訳者になれるかどうかの条件なのです。

最近、「人生100年」という言葉が一般的になってきました。東京都でも小池知事が音頭をとって首都大学東京を生涯学習の場にする「100歳大学」の構想が1月に発表されました。私からみれば、いまさらなにを、という気がします。自慢ではありませんが(本当は自慢ですが)、サイマル・アカデミーは、はるか昔から生涯学習の場として機能しており、さらには、第2・第3のキャリア養成の場としても十分に機能しています。サイマル・アカデミー産業翻訳者養成講座は16年目を迎えましたが、その短い歴史のなかでも、数十人にわたる日本トップクラスのプロ産業翻訳者を輩出してきています。

いま「日本トップクラス」と申しましたが、これは決して誇大表現ではありません。私は40年近く、翻訳者としてだけでなく、一時は翻訳会社の経営者としても産業翻訳に携わってきました。その長いキャリアのなかで、サイマル・アカデミー産業翻訳者養成講座出身の翻訳者ほどの優秀な翻訳者には、それほど数多くは出会ってはおりません。

繰り返しになりますが、ようは、やる気です。本当の本気になれるかです。皆さんのなかで、本気でプロ翻訳者になりたいとお考えの方がいらっしゃれば、ぜひ当講座にお越しください。本物の翻訳者となれるよう、全力でサポートさせていただきます。

ではこれで終わります。ありがとうございました。

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