【日英翻訳1日1題】 春の野に すみれ摘みにと 来しわれそ 野をなつかしみ 一夜寝にける
前回は「桜」に関する西行の一首をご紹介しました。今回は「すみれ」(violets)に関する山部赤人の一首です。
原文は 「春野尓 須美礼採尓等 来師吾曽 野乎奈都可之美 一夜宿二来」。
意味は 「春の野に、すみれの花を摘もうとやってきたが、その野をなつかしく思って、そこで一夜寝てしまった」。
すみれが咲く野の美しさを歌っているという説のほかに、すみれとは恋人のことであって彼女に会いにいったときのことを歌ったのだという説もあります。
さて英語です。これは1960年代アメリカを代表するビート詩人、Kenneth Rexrothの訳です。 Rexrothは、わたしの大好きな詩人のひとりです。
When I went out In the Spring meadows To gather violets, I enjoyed myself So much that I stayed all night.
meadowは草地(牧草地なども含む)のこと。複数形になっているので一か所でなく、いくつかの草地にいったのでしょう。
「摘む」にはgather(集める)が使えます。ちなみに「茶を摘む」のはpick tea。
I enjoyed myselfは直訳すれば「自分自身を楽しませた」ですが、英語としてはきわめて自然な表現であり、直訳のもつ奇妙なニュアンスはまったくありません。
逆に、日本人がよく使うI enjoy very much.という表現は、自動詞としての用法がenjoyにはありませんので(場面によってはおそらく通じるにしても)かなり奇妙です。
So much that…は「とてもそうだったので…である」というso…that構文です。
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