【翻訳ワンポイントレッスン】 「は」の射程距離には、ご注意を

先の【日本語ワンポイントレッスン】において「~が」と「~は」の影響力の射程距離の違いについて解説しました。

「~が」が影響力を及ぼすのは基本的にはその後にやってくる述語までです。ところが「~は」の影響力はその後にやってくる述語だけでなく少なくとも文全体にまで及び、さらには次の「~は」が出てこないかぎり、その後の文、その後の後の文…とずっと続きます。

実際の翻訳では、この「は」の特性がうまく処理されないために訳文にトラブルを生じているケースがよく見られます。一例をみてみましょう。

以下は、鷹狩りに使う鷹の飼育方法について書かれた翻訳下書き原稿の一節です。いろいろと問題を含んでいますが、ここでは「は」の射程距離のみに注目してチェックしましょう。

〈下書き原稿〉 馴化とは、猛禽を刺激に頻繁にさらし、反応を弱めることです。つまり、猛禽が物事に慣れるということです。馴化は伝統的な猛禽の馴らし方です。猛禽が肉体的にも身体的にも疲れ切って、反応しなくなるまで、誰かのこぶしに昼夜を通してつながれます。

まず1番目の文の「馴化とは」の「は」は次の「馴化は」の「は」がくるまでをすべてを射程距離としています。

したがって2番目の文「つまり、猛禽が物事に慣れるということです。」もまた「馴化とは」の射程距離範囲です。

ゆえに2番目の文は「(馴化とは)つまり、猛禽が物事に慣れるということです。」と読めます。

しかしながら「慣れる」は自動詞なのですからこれは日本語としておかしいですね。鷹が勝手に「慣れる」ことが「馴化」ではありませんから。

そこで2番目の文は「(馴化とは)つまり、猛禽を物事に慣らすということです。」のように変えなければなりません。

つぎに3番目の文の「馴化は」の「は」は「…馴らし方です。」を越えて4番目の文の最後である「…昼夜を通してつながれます。」までを射程距離とします。

したがって4番目の文は「(馴化は)猛禽が…つながれます」というかたちになります。これもまた日本語としておかしいですね。そこで4番目の文のトピックを「馴化では」に変えたうえで次のようにしてみます。

「馴化では、肉体的にも身体的にも疲れ切って反応できなくなるまで、猛禽を誰かのこぶしに昼夜を通してつないでおきます。」

これで「~は」の射程の問題については解決ができました。修正後の文を以下に示します。

〈下書き原稿の修正版〉 馴化とは、猛禽を刺激に頻繁にさらし、反応を弱めることです。つまり、猛禽を物事に慣らすということです。馴化は伝統的な猛禽の馴らし方です。馴化では、肉体的にも身体的にも疲れ切って反応できなくなるまで、猛禽を誰かのこぶしに昼夜を通してつないでおきます。

この修正版原稿には解決すべき問題がまだ数多く含まれていますが、それでも、修正前の下書き原稿よりは日本語文としての価値が大きく向上しました。

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