【翻訳ワンポイントレッスン】 日本語人は「丸裸の名詞」を誤読する
英日翻訳トレーニングに絶好のセンテンスを発見。間違いそうなポイントがいくつも入っています。そのセンテンスをもとに、これから何回かのレッスンをします。今回はその1回目。
そのセンテンスは次のもの。まず英文を理解して、日本語にしてみてください。
A man is a laborer if the job society offers him is of no importance to himself but he is compelled to take it by the necessity of earning a living and supporting his family.
ある方は、次のように訳しました。
業界に職を提供されれば労働者になるというのは、自分にとっては何の興味もないことだ。しかし、生計を立て家族を養うためには、その仕事をせざるを得ない。
これは誤訳です。英文構文の理解に失敗しました。どこを失敗したかというと、最初のA man is a laborer if the job society offers him is of no importance to himselfです。
この方は、この部分を次のように理解しました。
(That) A man is a laborer
if the job society offers him
is of no importance to himself
すなわち、(That) A man is a laborer ...himまでがthat節の名詞用法であり、その名詞用法のthatが省略されている、としたのです。
そしてこの構文理解で、無理やりに日本語にしたために
「業界に職を提供されれば労働者になるというのは、自分にとっては何の興味もないことだ。」
になってしまった、ということです。
本当の分析は次のとおりです。
A man is a laborer
if
the job
society offers him
is of no importance to himself
society offers himがthe jobに対するmodifier節です。
この方の構文理解の失敗はthe job society offers himのsocietyを、その前のthe jobとくっつけてthe job societyと名詞に理解してしまったところです。そのため、the job societyがhimにofferするという間違った構文理解になり、それを担保するために、ほかの部分も間違ってしまった、という流れです。
ポイントは、societyという語がtheやaもつかずに丸裸のままで名詞/主語になるという認識を、この方が明確には持っていなかったこと。たとえば、もしこの部分が
A man is a laborer if the job which the society offers him is of no importance to himself...
であれば、この方も構文把握ミスを決して起こさなかったでしょう。
この問題は、この方だけの問題ではありません。日本語人英語学習者の非常に多くが、この「丸裸」のsocietyを名詞と認識することが、うまくできないのです。
もちろん、これはsocietyという語だけの問題ではありません。その他の語でも、当然ながら起こます。したがって私たちは、この「日本語人は『丸裸』名詞を誤読する」という、日本語人としての弱点を十分に理解しておかなければなりません。