花の色は うつりにけりな いたづらに わが身世にふる ながめせしまに

絶世の美女とされる小野小町の一首。出展は「古今集」。小倉百人一首にも取り上げられています。

「ふる」は「経る」と「降る」、「ながめ」は「眺め(物思いにふける)」と「長雨」の掛詞(かけことば)。

掛詞は、英語では”Pivot word”といいます。Pivotは旋回軸のこと。バスケットボール用語(ピボットターン)としても使われていますね。和歌の用語とバスケットの用語が英語では同じだなんて、面白いと思いませんか?

意味は、次のとおり。

降りつづける長雨に、

桜花の色は移ろっていく。

私自身もつまらない物思いにふけっているうちに、

盛りの時をもう過ぎてしまった。

これと同じ詠嘆の心情は、西欧でもよく歌われます。たとえば、フランコ・ゼフィレッリ監督の名作「ロミオとジュリエット」(1968)の祝宴のシーンでは、次のような曲が流れます。

What is a youth? (若さとは)

Impetuous fire. (つかのまの炎)

What is a maid? (乙女とは)

Ice and desire. (欲望を秘めた氷)

The world wags on (この世は移りゆく)

A rose will bloom, (バラは花開き)

it then will fade (やがてしぼむ)

So does a youth. (若さも)

So does the fairest maid.(そして愛らしき乙女も同じこと)

さて、「花のいろは…」の英語です。今回は、ドナルド・キーンとKenneth Rexrothという、文学研究者と詩人の2つの訳を比べてみましょう。

まずはドナルド・キーンの訳です。

The flowers withered,

Their color faded away,

While meaninglessly

I spent my days in the world

And the long rains were falling.

直訳は

花はしぼみ、

色あせてしまった。

私は意味もなくこの世で時をすごし、

そのあいだ雨が長く降り続いている。

witherは「植物がしおれる、枯れる」、

fade awayは「徐々に消え去る」。meaninglessは「意味なく」。

つぎは、Kenneth Rexrothの訳です。

As certain as color

asses from the petal,

Irrevocable as flesh,

The gazing eye falls through the world.

直訳は

花弁の色が必ず色あせていくように、

肉体の衰えを、とり戻すことはできない。

じっと見ているだけでは、この世を無為に過ごすことになる。

petalは花弁。

irrevocableは「呼び戻せない」。

fleshは「肉体」。

gazingは「じっと見る」。

fall throughは「駄目になる」というイディオムですが、ここでは世界の終りまで落ちていくというイメージとの「掛詞」です。

キーン訳とRexroth訳、それぞれに素晴らしいのですが、方向性はまったく異なります。あなたはどちらがお好みですか?

えっ、わたし? わたしはどっちも。

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