童謡「しゃぼん玉」「ぞうさん」を英語にすると
今回は日本の童謡を2つ、とりあげたいと思います。
ひとつめは、「しゃぼん玉」(作詞 野口雨情 作曲 中山晋平)です。この曲は1922(大正11)年に発表されました。
しゃぼん玉とんだ 屋根までとんだ 屋根までとんで こわれて消えた
この詞は野口雨情がわずか数カ月で死んだ自分の娘を偲んでつくったものとされています。それゆえに、これに続く「しゃぼん玉きえた とばずに消えた 生まれてすぐに こわれて消えた」「かぜ かぜ ふくな しゃぼん玉 とばそ」という歌詞にこめた雨情の思いが痛いほどに伝わってきます。
さて英語です。この曲についてはグレッグ・アーウィンさんという方が『英語で歌う、日本の童謡』という著書のなかでとりあげています。今回をそれをご紹介します。
Blowing bubbles everywhere
Blowing bubbles in the air
Some will fly up to the sky
Some will drop and just go pop
よい訳だと思います。なによりも歌いやすいですね。
1、2行目の終わりはin the air/everywhereで韻を踏んでいます。「こわれる」にはgo pop(ポンとはじける)というきわめて口語的な表現をつかっています。popはポップコーンのポップですね。
「とんで、こわれて消えた」の部分は、普通であれば現在完了形を使って
Some has flown up to the roof
Some has dropped and just gone pop
とするところだと思いますが、アーウィンさんはroofでなくskyという広々としたイメージの語を使い、現在完了形より前向きなイメージの未来形(will fly up, will drop and just go pop)を使っています。
これでは野口雨情がこの詞にこめた本当の心情が表れませんが、アーウィンはそれを知ったうえで敢えて元気で明るい歌にしたのだと解説で述べています。
確かにそれもひとつの訳出方法なのですが、私ならば、とてもそうはできません。アメリカ人と日本人の美意識や人生観の違いかもしれませんね。
☆☆☆
2つめは、ごぞんじ「ぞうさん」(詩 まど みちお、作曲 団伊玖磨)です。
ぞうさん ぞうさん おはなが ながいのね そうよ かあさんも ながいのよ ぞうさん ぞうさん だれが すきなの あのね かあさんが すきのよ
これで歌詞はぜんぶ。みじかい、みじかい詩ですね。
まどみちおさんの詩としては、このほかに「やぎさんゆうびん」「ふしぎなポケット」なども有名です。1909年11月生まれで、2014年にお亡くなりなるまで100歳を越えても現役詩人として詩集を出し続けておられました。まさに人生100年時代の先駆者です。
さて英語です。私がつくりました。
My little elephant, my little elephant
You have such a long nose!
Yes I do, yes I do
My mammy has a long nose, too
My little elephant, my little elephant
Whom do you love so much?
I say to you, I say to you
I love my mammy so much
いじわるな大人が小さな子どもに向かって「きみのおはな、とっても大きいねえ」などとからかいます。こういうひと、いますよね。
そこで子どもが、きっちりといいかえすのです。はい、おかあさんも大きいです、と。大好きなおかあさんと同じ長い鼻をもっていることを誇っている小象のすがた、とてもいいですね。
通常、象の鼻はnoseでなくtrunkといいます。樹の幹(trunk)に似ているからです。しかしおそらく5歳以下の子どもたちは、この単語を知らないでしょう。小さな子どもに向けての言葉としては、long noseのほうがぴったりくると思います。ちなみに犬や馬の鼻はmuzzle、ブタの鼻はsnoutといいます。
such a long noseのsuchは、「とても、非常に」という強意の使い方。3行目と4行目はdoとtooで韻を踏ませました。mammyはmotherの幼児ことばです。
I say to youは「あなたがたにいっておく」。聖書やキング牧師のスピーチ“I have a dream”などにも使われています。